ヴァンパイア・マウンテン編、いよいよ完結です。

裏切り者の手から逃れるために、昔ヴァンパイアたちが水葬のために使っていた水路に身を投じたダレン少年。岩にぶつかったり引っかかったりしながら、マウンテンから脱出するのですが、試練で受けたダメージが酷く残っているために歩く事すらままならないほど。もうだめかと思われた時に現れたのは、懐かしいストリークとルディの狼親子。彼らはダレン少年を引っ張ったり、歩かせたりして、自分たちの群れに連れて行きます。そこでゆっくりと休息したダレン少年は、裏切り者の狙いに気付いて、阻止するためにマウンテンに戻る事を決意します。
戻れば死刑が決まっているにもかかわらず。誇り高いヴァンパイアたちに囲まれているダレン少年は、いつのまにやら高潔なヴァンパイアに成長していたようです。

狼たちの導きで、マウンテンの奥深く「元帥の間」にまで辿り着いたダレン少年は、シーバーに助けを求め、皆の前で裏切り者を告発することに成功します。彼は決して言い逃れはしませんでした。潔く認めて、裁きを受ける姿勢を見せました。しかし、裁きの前に彼がヴァンパイア・マウンテンにこっそり潜ませたバンパニーズを始末することになりました。ほら穴の中にいるバンパニーズと正面から戦ってもこちらの犠牲が多いため、ダレン少年の奇抜なアイディアが採用されます。

作戦は上手くいきますが、それでも犠牲は出て、ダレン少年と親しかった人も亡くなってしまいます。劣勢のバンパニーズを嬉々として殺していくヴァンパイアたちに違和感を感じるダレン少年。それは読者も感じる違和感だと思う。ヴァンパイアたちの高潔さや仲間に尊敬されるために努力する点は好感が持てるのに、あの好戦的な部分は好きになれない。
頼もしい反面、恐ろしく感じます。

この巻で一番考えさせられるのは、裏切り者の裁きのシーンでしょう。どうしてバンパニーズを呼び寄せたのか、一族を裏切ってまで何を為し得たかったのか。最初は罵倒していたヴァンパイア達も、彼の言葉を聞くうちに事の重大さが伝わってきて、黙ってしまいます。それほど事態は切迫していたのです。ミスタータイニーが予言したヴァンパイア一族の滅亡をもたらすバンパニーズ大王が現れたらしいのですから。大王以外のものを焼いてしまう「炎の棺」に入って無事だった人間が現れたというのです。「運命の使者」と名乗るバンパニーズの集団に守られているその人間が、バンパニーズの血を流し込まれれば、バンパニーズ大王になってしまうらしい。

裏切りもののした事は、確かに一族に対する裏切り行為であったけれど、一族の滅亡をなんとか免れたいと考えた末の行動であったとしたら、彼は罰されるべきなのだろうか?目的のために迷うことなく仲間を殺してしまう彼だが、多数を救うために少数を犠牲にできる、人の上に立つに必要な決断のできる彼のような者を、死刑にしてしまって良かったのだろうか。
もう少しヴァンパイア一族が柔軟な考え方が出来たら、彼もこんな強硬な手段に出なくても良かったんじゃないかと思う。そうすればもっと違う結果が出ていただろうに。悲しいです。

ダレン少年には、彼の死の意味を忘れないで欲しい。方法は間違っていたかもしれないけれど、彼も誇り高い、一族を愛して止まないヴァンパイアにはちがいないから。

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